観光はペットとともに
研究員コラム
「ペット・ツーリズム」という語を聞いたことがあるだろうか。明確な定義はなく、いつ頃から使われるようになったのかも定かではないが、飼い主とペットが一緒に宿泊施設に宿泊したり、日帰りでドッグランに行ったりカフェで食事をするといった、飼い主とペットの双方が余暇を楽しむための行動を指すこの言葉は、コロナ禍でのペット需要の増加によってますます注目されるようになった。
楽天グループ株式会社の調査によると、旅行予約サービス「楽天トラベル」では、2022年以降、「ペット」のキーワードを含む宿泊プランの泊数がコロナ禍前の2019年比で約1.3倍、「愛犬」のキーワードを含むプランの泊数は2019年比で約1.6倍に伸長したそうだ。そういえば、筆者も愛犬家の友人から、ペットと一緒に温泉旅行をしたという話を少し前に聞いたことがある。友人が見せてくれた、犬用の浴衣を着て旅館でくつろぐワンちゃんの写真からは、楽しい旅の様子がうかがえた。
ペット・ツーリズムが活況なのは日本だけではない。韓国は、政府が中心となってペット・ツーリズムの振興に努めている。文化体育観光部(日本の文化庁・観光庁・スポーツ庁にあたる)は、ペットと一緒に旅行しながらその地域の多様な観光資源を活用した宿泊・体験・ショッピングなどができる都市「ペットフレンドリー観光都市」の造成をめざしているようだ。そのために、公募型事業を毎年実施し、地方自治体に参加を呼びかけている。
2023年にペットフレンドリー観光都市に選定された蔚山広域市は、ペットと一緒に市内の主要観光地を巡りながら、各所で与えられるミッションに挑戦する観光プログラムを開催した。周遊型のリアルRPGのような形式になっており、ゲーム感覚で観光を楽しめる工夫が施されている。
2024年に入ってからも、市はペット・ツーリズムの充実のためにFAMトリップ」を開催している。FAMトリップ(Familiarization Trip)とは、観光地の誘致促進のため、旅行事業者やブロガー、メディアなどに現地を視察してもらうツアーのことで、モニターツアーの一種である。同市が行うFAMトリップは、ペットと飼い主が旅行代理店やインフルエンサーの方々と一緒に、ペット同伴可の観光地および施設を見学するツアープログラム。見学コースの中には、市内にあるペットのための文化センター「アニアンパーク」も含まれる。アニアンパークは、蔚山広域市が韓国国内のペット文化の中心都市になることをめざし、ペット事業を運営する法人「ヒューマン・アニマル・インタラクション」によって2020年に開館した施設だ。約2,000㎡の室内空間と約13,000㎡の屋外敷地を有しており、広大な敷地内には天然芝の野外運動場や水遊び場といった遊び場のほか、飼い主が犬の由来や特性などを学べる体験学習型コンテンツが揃った展示室、ペットのしつけ教室が備えられている。アニアンパークは、蔚山広域市がペットフレンドリー観光都市に選ばれてからはより一層、観光スポットの一つである太和江国家庭園を会場としたウォーキング大会など、ペットと飼い主が一緒に楽しめるお出かけイベントを頻繁に主催しているようだ。
また、2024年のペットフレンドリー観光都市に選定された抱川市と順天市では、ペットと観光を楽しむための拠点施設を整備するとともに、それぞれの市が有する自然景観を活用したペット同伴の観光プログラムが企画されている。抱川市は、採石場だった場所を複合文化施設に生まれ変わらせた抱川アートバレーにペットのウェルカムセンターを開設する方針。ペット連れの観光客にとって有益な情報提供の場となるとのこと。あわせて自然豊かな漢灘江流域では、これまではペットの立ち入りを禁止していたが、一時的にペット同伴の旅行者にも開放するプログラムを計画し、ペットを同伴できる音楽イベントも開催されるそうだ。順天市においては、2023年に開館したペット文化センターを中心に、順天湾国家庭園でのペットと一緒に楽しむキャンプや食事イベントなどの実施が予定されている。
大切な家族の一員であるペットにも、旅先で楽しい体験をさせてあげたいと思う飼い主は多いはず。飼い主がペットとともに観光を満喫できるような取り組みは、日本各地でもさらなる展開が可能なのではないだろうか。観光振興のカギとなりうるペット・ツーリズムの今後の動向には注目である。
国際文化観光研究室 土屋香子